細身の英国傘 FOX

 

FOXは、開いた時のフォルムだけでなく、閉じたときの細身のフォルムを自慢している珍しいメーカーでもあります。

英国人、特に英国紳士にとって雨を防ぐ、という機能は傘の機能の半分でしかなく、あとの半分は何かといえば、ステッキです。英国紳士にとって、傘の半分はステッキである、ということが理解できれば、彼らの傘の扱い方、または英国製の傘そのものをほぼ理解した、といえます。たとえば、ステッキとして、傘を日常的に携行しようと思えば、これを可能な限り細く巻くは当然のことです。しかるに、傘を細くきりりと巻くことは、思う以上に技術を要する作業であって、ここにその道のプロが誕生します。アンブレラローラーという職業は、戦前までのロンドンには普通にありました。巻かせた客の側からすれば、対価を支払ってまで細く巻いた自慢の傘を少々の雨などで開くわけにはいかない。すなわち、その傘を大きく打ち振り、辻馬車、またはタクシーを停めて家路を急ぐ、ということになります。この他にも腕にハンドルを掛けて携行する場合のハンドルの向き、パブなどで傘に心持寄りかかった姿勢で立ち飲む場合の見苦しくない姿勢、など、傘およびステッキの取り扱いについて、かの地では常識ともいえる扱い術が確立されています。いずれも、FOXという「細身の英国傘」あってこそ確立された英国固有の文化です。

 

 左）アッシュ、マラッカ（共にジェンツ）   右）革細巻きフリル（レディス）